だがしかし!
ペグといえば
強度 と軽量さが最も重要なファクターであるはずだが、
その
強度 に関しての設計思想が、
各社マチマチ、かつ、真に迫るものが見当たらないことが、
今回 ”著者” がこの入門書を執筆することになった動機である。
この入門書では、キャンプのペグを設計する上で欠く事の出来ない
材料力学視点を中心に、設計初心者にもわかりやすい指南書となるように心がけた。
また設計する側のみならず、ペグ使用者(キャンパー)側にとっても、
本書の内容を理解することは、今後のキャンプ人生において
少なからず役に立つのではないかと自負している(爆)
2021年7月吉日 放浪親子キャンパー・しく
以下、素人に毛の生えた程度の知識でお送りします(苦笑)
本内容により生じる如何なる損害の責任は負いません(爆)
第1章 ペグの材料
さて、第1章では、ペグの性能を大きく左右する、材料の選定について述べたいと思う。
まずは下の表を見てほしい。
これらは、ペグの材料として使用されている代表的なものの「物性値」を一覧にしたものである。
上段に書いてあるものが「材料記号」で、下段は「通称」である。
なお、純チタンは市販のペグに使用されているかは定かでは無いが、
64チタンと大きく異なる物性値を持つため、比較のために記載した。
この一覧表からも多くのことが読み取れるが、わかりやすいように、各項目毎に解説していく。
第1章−1 比重
まずは、一番簡単な「比重」である。
「比重」とは、読んで文字のごとく、重さの比率であり、
その基準は
「水=1」となっている。
下のグラフから読み取れるように、チタンは水の約4倍重く、ステンレスやスチールは約8倍重く、
ジュラルミンは約3倍重い。
例えば、10Lの水が入るバケツがある。
10Lの水を入れると、その重量は10kgとなる・・・ここまでは一般常識だろう。
(本当は「重量」ではなく「質量」が正しい呼称)
そのバケツいっぱいにステンレスを入れると、その重量は80kgとなる。
重い・・・とてもじゃないが、片手で持てないだろう(笑)
ペグも全く同じである。
例えば
ソリッドステーク20という
S55C(炭素鋼)のペグがある。
このペグの重量が75g ≒ 約80gである。
このソリッドステーク20と同形状のペグをチタンで作った場合、
その重量は約40gになり、超々ジュラルミンで作った場合は約30gになる。
以上が比重の概念である。
ペグの世界では、せいぜいチタン系の
4、鉄系の
8、ジュラルミン系の
3
この3つの数字を覚えておけば事足りるので、これらの数字は暗記しておくとよい。
第1章−2 耐力と引張強さ
ここから、話は少し難しくなる。
下のグラフは、前出の表から、各材料の「耐力」と「引張強さ」のみを抜き出したものである。
いずれも単位は [MPa](メガパスカル)で、[Pa] = [N/m2]
例えば下の450MPaは、450 x 10^6 [N/m2] で、9.8N ≒ 1kgf であるから、
450 [MPa] ≒ 46 [kgf/mm2] (1mm2あたり46kgの力)ということになる。
また、「耐力」と「引張強さ」とは、その材料の「引っ張り試験」における以下の値を示す。
耐力:塑性変形を始める応力(応力:単位面積あたりの力)
引張強さ:その材料がちぎれる応力
塑性変形とは、引っ張るのをやめたときに変形が戻らなくなる状態で、
例えば日常生活で使用している輪ゴムは、
塑性変形ではなく、弾性変形(変形が元に戻る)の領域で使用しているが、
無理に伸ばしすぎると、白っぽくなり、復元力が無くなってしまう。
あの状態を塑性変形だと思ってもらえばいいだろう。
更に無理に伸ばすと、輪ゴムはちぎれるわけだが、
そのときの「引っ張り力」を輪ゴムの「断面積」で割ったものが「引張強さ」である。
それを踏まえた上で、先ほど計算した
450 [MPa] ≒ 46 [kgf/mm2] を思い出してほしい。
つまり、わずか1mm2(1mm × 1mmの正方形)の断面積の金属棒に、
46kgの重りをそっとぶら下げたときに、
64チタン、S55C、A7075は、全くダメージを受けない(青が450より上)
SUS304は、元に戻らないダメージを受けるが、ちぎれはしない(緑だけ450より上)
純チタンとSS400は、ちぎれる(緑が450より下)
↓文章と対比して見やすいように再掲
これが「耐力」と「引張強さ」の概念である。
ここまで書くと、こう疑問に思う読者諸兄も居るかもしれない。
本書は「ペグの設計」について述べているのであり、
ペグというのは、
引っ張られることよりも、曲がることを気にした方が良いのではないか?
何故、この「引っ張った時の」強度で議論を進めるかというと、
「曲げ」だろうが
「引っ張り」だろうが
「せん断」だろうが、全ての強度の基準は、
この「耐力」と「引張強さ」によって決定されるからである。
更に言うと、一般的にモノを設計する場合、
強度計算の結果と比較するのは「耐力」の方であり、「引張強さ」の値は使用しない。
というのも、変形が元に戻らない「塑性変形」を起こしてしまっては、
大概のものは「壊れた」ことになり、役に立たないからである。
これはペグの世界でも同じであろう。
ペグがポキッと二つに折れたらNGだけど、曲がるのはOK
という、心の広いキャンパーは奇特であり、
一般的には曲がったら残念な気持ちになるものである(笑)
では「引張強さ」の値に全く意味がないか?というと、そういうわけでも無い。
例えば上のグラフで青と緑が近いか、離れているかでこのような差があると想像できる。
青と緑が近い:いきなり割れる、折れる
青と緑が遠い:曲がってしまっても、なかなか割れない、折れない
実際に使用している上で、いきなり割れたり折れたりするものは
予期せぬ事故の元であり、
青と
緑が遠い方が、
つまり
耐力と
引張強さが大きく異なる方が、感覚的には安心な材料といえるだろう。
以上のことを踏まえて、このグラフをもう一度見てみると、
読者諸兄にとっても、このグラフは実に有益な情報に見えてきたのではないだろうか?
まず目を引くのが、
64チタンの耐力と引張強さの異常な大きさである。
第1章−1(比重)の項でも述べたように、チタンは鉄系(S55Cも含む)の約半分の重さである。
にもかかわらず、あのソリッドステーク(S55C)をも明らかに上回る材料強度を持っているのである。
ただし、グラフを見てわかるように、青と緑が非常に近いため、
いきなり割れたりするリスクは高そうだということも頭の片隅に置いておこう。
更に注意したいのは
「64チタン」と「純チタン」の強度差である。
この両者の比重はほぼ同一であるが、耐力と引張強さはまるで違う。
つまり「チタンペグ」というものを購入するときには、
64チタンなのか?純チタンなのか?
これを確認してから買うことが、非常に重要である。
しかしながら、読者諸兄が、ペグの強度には興味が無く、
重量しか気にしないのであれば確認の必要は無い(爆)
(64チタンも純チタンも比重はほぼ同じ)
・・・という強度データを後ろ盾として、現在増殖しているのがチタン系のペグである。
例の如く amazon には、中華系のチタンペグが大量に売られているが、
やはり信頼できる国産ブランドから選ぶとすれば、
村の鍛冶屋
一択となりそうだ。
スノーピーク 社は、ソリッドステークに慢心してしまい、64チタンのペグは開発していないのだろうか?
マキタの工具の樹脂部分を、ベージュ色に換えたものを発注するだけが仕事ではないのだ。
エリッゼ(ELLISSE) 鍛造 64チタンペグ エリッゼステーク 200mm MK-200TI MADE IN JAPAN(amazon)
と、なんだか村の鍛冶屋のステマ記事みたいになってしまったが、
本書は「ペグの設計」という崇高なタイトルを掲げていることを忘れてもらっては困る。
(↑著者本人が忘れていた(爆))
実は、冒頭の表で示した「ヤング率」に関しては、まだ触れておらず、
更に、著者が提唱する「ペグ設計の肝」についても、まだ言及していない。
つまり、続きは
有料版の「ペグの設計」(2)を参照していただきたいのだが、
誰もお金を払わないと容易に想像が付くので(爆)
次回特別に無料で公開しようと思う。
ただし、まだグラフを作っただけで、本稿には手を付けていないので、
喫緊のペグ設計業務が差し迫っていない読者諸兄においては、気長に待って頂きたい。
(つづく?)
↑7/11 後編をupしました